泉佐野市・日根野の地に鎮座する日根神社は、14世紀の史料にも登場する中世荘園「日根荘」の中心を担った、由緒ある神社です。そのすぐ脇を流れる井川(ゆかわ)は、約800年前から現在に至るまで、地域の田畑を潤す重要な灌漑用水路として使われており、現代では「世界かんがい施設遺産」にも登録されています。
この水の恵みに感謝し、夏の無病息災と五穀豊穣を祈る祭礼が、毎年7月第3土曜日に行われる「ゆ祭り」です。古くは旧暦の6月16日に実施され、地域の農と信仰を支える重要な行事として、今も人々に大切にされています。
🛐水の神に捧げる祈り
「ゆ祭り」では、井川の川辺に祭壇を設け、水神への祈りと清めの神事が執り行われます。
地元では古くから「この川の水に手をつけると、できものが治る」と伝えられており、水への信仰が深く息づいています。地域の人々にとって井川は、単なる農業用水ではなく、神聖な存在として敬われてきました。
また、同日には、半年分の罪や穢れを祓い清める神事「夏越の大祓(なごしのおおはらえ)」も執り行われます。境内に設置された茅の輪(ちのわ)をくぐることで、無病息災を祈願します。
🧧人形(ひとがた)のお祓いについて
お祓いに用いる人形(ひとがた)は、社務所にて通年受付されています。
紙の人形に自分の名前と数え年を記入し、息を吹きかけ、体の悪い部分を撫でて穢れを移し、神社に納めます(初穂料:1,000円より)。
ゆ祭り当日には、神職によりこれらの人形が井川(ゆかわ)に流され、お祓いが行われます。


💧井川用水 ― 中世から続く“生きた灌漑システム”
「ゆ祭り」の神事が行われる井川(ゆかわ)は、実は中世から続く貴重なかんがい用水です。
この水路は、荘園領主として当地を治めていた九条家によって整備されたもので、農業開発の要として機能してきました。
その成立時期には諸説ありますが、1316年の村絵図にはすでに一部水路の存在が記録されており、井川用水の歴史的価値を裏付けています。全長は約2.9km、取水口から最終地点の十二谷池までの高低差はわずか約3メートル。この微妙な傾斜を活かして水を引いた設計は、当時の高度な土木技術の証といえるでしょう。
井川の整備によって、荒野だった日根野地域の田地面積は飛躍的に拡大。用水は今も当時とほぼ変わらない流路のまま使われ続けており、泉佐野の農業を支えています。
🏞️ 井川用水は、日本で唯一、現在も使用されている農業用水路として「国の史跡」に指定されています。
中世の農村開発と灌漑技術の姿を、現代に伝える“生きた文化財”として、国内外から注目されています。
このような背景から、「ゆ祭り」は単なる夏の行事ではなく、水とともに歩んだ地域の歴史と精神を象徴する祭礼としての意味を持っているのです。
🎵神に捧げる唄と舞「五社音頭」
夜になると、境内に設けられた櫓(やぐら)のまわりで、「五社音頭」が奉納されます。
この音頭は、和泉五社(大鳥神社・穴師神社・聖神社・日根神社・積川神社)に由来する地名が唄に織り込まれた、地域に根付いた祝祭の唄です。もともとは伊勢参りの渡御唄「ヤレイナ節」が原型とされ、昭和40年に「五社音頭」と名付けられて以降、氏子や保存会の手によって大切に継承されてきました。
神社に奉納される伝統的な踊り「五社音頭」は、和泉五社にちなんで名付けられた祝祭の唄であり、地域の神事として今日まで受け継がれています。
※「五社音頭」は、祖霊供養の盆踊りとは異なり、日根神社の夏の神事において神々に感謝を捧げる奉納舞(ほうのうまい)として位置づけられています。
踊り手は日根野・上之郷・長滝の3地区から参加し、歌詞と舞に込められた歴史と土地への敬意を、神に届けるように舞います。目立たずとも、静かに燃えるような信仰の熱量が感じられる、深い味わいのある奉納です。
🔍歴史文化の背景
「ゆ祭り」は、日本遺産「旅引付と二枚の絵図が伝えるまちー中世日根荘の風景―」の中核をなす行事でもあります。日根神社はその鎮守(ちんじゅ=中核の神社)として、荘園の人々すべての祈りを集めてきました。
また、神事に用いられる井川用水は、現代も稼働し続ける実働水路でありながら、農業史・信仰史・生活文化を語る貴重な歴史遺産でもあります。まさに、過去と現在が共存する生きた文化財といえるでしょう。
🌿訪れる人へのメッセージ
水を祀り、神に唄い、穢れを祓う——
日根神社の「ゆ祭り」には、現代人が忘れかけた自然との共生の祈りがあります。
華やかさや派手さはありませんが、そこには何世代にもわたって織りなされた祈りのかたちが息づいています。
静かに心を澄ませば、地域が受け継いできた“水とともに生きる”精神がきっと見えてくるでしょう。
<基本情報>
ゆ祭り
時期:毎年7月の第三土曜日 19:30~21:30(予定)
※日時は、わかり次第本サイトにてご案内します。
参加費:無料
場所:日根神社
アクセス:南海本線泉佐野駅・ JR阪和線日根野駅より南海バス犬鳴山行「東上」下車すぐ
駐車場:無
※近隣に駐車場等はございませんので、バス、自転車、徒歩でお越し下さい。
主催:日根神社
問い合わせ:072-467-1162(日根神社/受付時間:9時~16時)
🔗 関連リンク
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